道化師

ガブリエルは道化師の仮装をして目を若干伏せながら歩いている。手には赤い風船を携えている。
大人たちはみんな思い思いの仮装をしているがガブリエルは人柄のせいか悪目立ちしている。
彼が口をきけないことは街中の誰もが知っている。また、それは殺された両親の遺体を見たショックからだということは街の半分の者が知っている。
それからは彼はグレた。街の人気者の警官のアンドリューと揉み合いになり彼を殴り殺して牢屋にブチこまれたことは隣町の住人でさえ知っているかもしれない。
彼はクリスチャンだ。刑務所内のいじめを察知し、彼をいち早く独房に移してくれた看守が熱心なキリスト教徒だったのだ。出所してからまず最初に向かったのが教会だった。
誰も知らないことがある。彼は子供好きなのだ。本当は家庭を持ちたかったが前科者で口の聞けない自分には高望みだと諦めていた。
それから孤独に暮らした。一日に人と関わるのは教会の司祭、シスター、掃除夫との何気ない挨拶だけだ。
それから月日が経った。司祭は一人が死に一人が左遷されて今は若者がつとめている。シスターはお婆さんになり少しボケ始めた。掃除夫は死に今は市からの派遣員が機械的に仕事をしている。
ガブリエルは何も変わっていなかった。頭脳は衰え体はキシむが、しかし、何も変わっていないことが自分で分かるのだ。それがいいことなのかなどは考えなかった。全ては神が決めたことだ。それが、その通りなのだ。
若い司祭は街を復興させようとハロウィンパーティーを町議会に提案した。予算もかからず反対する理由もないので毎年10月の最終日には仮想パーティが町のメインストリート、A通りで催されるようになった。
決定から5年がたち、都会からもちらほら観光客が仮想を見に来るようになった。司祭は祭りの季節になると町民にぜひ仮装して下さい!と挨拶まわりをするようになった。
ガブリエルはその季節になると教会に運ぶ足が重くなるほどその勧誘が嫌だったが、ついに根負けしてしまった。
街の変わり者は男の子をちらちら見る。歩き方がぎくしゃくして機械みたいだ。男の子は不安げだ。男の子の父親は怪訝な顔をしている。ガブリエルは男の子の眼の前で歩みを止めて震える手で風船を渡す仕草をする。父親は息子の身を少し自分に寄せる。1つの風船が手を離れ空に飛んでいってしまった。ガブリエルは唇を噛み締めながら震える手でもう一つの風船を差し出す。男の子は父親に何かを言った。それから恐る恐る風船を受け取り、ありがとうと少しこわばりながらも笑ってみせた。
ガブリエルは泣き崩れた。

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