エリザベスの部屋

エリザベスは窓から外を眺めた。今日は曇りで、宮殿を出入りする人影もまばらだった。
やがてカーテンを引き、ランプに火を灯す。オレンジ色の光が、卓上の緑の食器を鈍く照らした。
それは昨日、東の使者が献上したものだった。
丸みを帯びたその皿に、エリザベスはときおり息を吹きかけ、布で丁寧に磨く。そうしていると、不思議と心が落ち着いた。
足音が近づく。誰かが部屋へ来る。
エリザベスは咄嗟にベッドへ潜り込んだ。
「お嬢様、ご気分はいかがですか」
細長い顔の大臣が、静かに部屋へ入ってきた。
「ええ、問題ないわ」
「昨日も倒れられたと聞いておりますが」
「もう良くなったの。この通り」
エリザベスは笑みを作ってみせた。
「素敵な笑顔でいらっしゃいます。……ですが、顔色が優れません」
大臣は穏やかに言葉を継ぐ。
「そろそろ医者にかかられる頃合いかと」
エリザベスの表情が曇る。
「また瀉血するの?」
「それは医師の判断にございますが……」
「いやよ。絶対にいや。あれのせいで、余計に具合が悪くなるの。それに──自分の血を見るのが……怖いの」
言い終える前に、涙がこぼれた。
困り果てた様子で、大臣は言った。
「では……診療の後に、また使者へ土産を頼みましょう。古今東西の──」
言葉が終わるより早く、エリザベスは緑の食器を床へ叩きつけていた。
乾いた音を立て、皿は無残に砕け散る。
「掃除の者を呼んでまいります」
大臣は足早に部屋を去った。
エリザベスは布団にくるまり、声を押し殺して泣いた。
やがて、住み込みの掃除婦がやって来る頃には、涙は止んでいた。
かすれた声で、エリザベスは問いかける。
「……ここでの暮らしは、楽しい?」
掃除婦はにこやかに頷いたが、はっきりとは答えなかった。
その日の残り、エリザベスはただ、窓の外を見続けていた。

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