手相占い

酒に酔った勢いだった。

俺はもともと占いなんて信じていないし、むしろ嫌いなタチだ。だが、そのときは占い師のほうから「タダで占ってあげる」と擦り寄ってきたので、つい手相を見せてしまった。飲み会の帰り道のことだ。
どうやら俺の顔は"占い甲斐"があるらしい。どんな顔だよ。しかも、その占い師はその界隈ではちょっと名の知れた人物らしかった。

占い師は、俺の手相をじっと見つめ、指でなぞった。そしてしばらく、苦悶にも似た表情を浮かべたあと、こう言った。

「あなた、将来犯罪で捕まりますよ」

「そんなはずねぇだろ!」と俺は怒鳴った。するとその占い師は、落ち着いた様子でこう続けた。

「一週間前にペットを亡くしましたね。交通事故で」

亡くなった犬のこと、しかもその死因まで当てられて、俺は言葉を失った。
たしかに思い当たる節はある。俺は喧嘩っ早い。いわゆる瞬間湯沸かし器だ。だが、さすがに犯罪を犯すほど馬鹿じゃない。そう思いたかった。半分信じて、半分疑い…そんな気持ちだった。

──

数日後、テレビをつけると、あの占い師が出ていた。番組の司会をしていた有名タレントが、挑発的に言った。

「俺はオカルトなんて信じない! 当てられるもんなら当ててみやがれ!」

すると占い師は真顔で言い放った。

「あまりあれこれ占っても意味がない。だってあなた、どうせ一週間以内に死ぬんですから。病気で」

スタジオの空気が一瞬で凍りついた。
俺は「さすがにそれはないだろ」と思ったが、どこか不安でもあった。

……そして4日後、そのタレントは心臓発作で死んだ。

あの事件以来、占い師は神のように世間から崇拝されるようになった。
それを機に、俺は粗暴な自分を真剣に見つめ直した。
どんなにムカつくことをされても、作り笑いでニコニコとやり過ごすように努めた。次第に周囲から"仏"とあだ名されるようになった。悪い気はしなかった。やがて心の底から穏やかさを感じるようになった。

──

10年が経った。

今では穏やかな家庭を持ち、幸せに暮らしている。
だが、あの占いのことは家族には話していない。時おり悪夢にうなされ、妻に心配される。

そんなある日、後輩がこう言ってきた。

「冷やかしで、人気のない占い師に運命を占ってもらいませんか?」

最初は断ろうと思ったが、あの日のことがどうしても引っかかっていて、「違う占い師の意見も聞いてみるか」と思い直し、後輩について行った。

占いは、またしても手相だった。
まず後輩が手を差し出すと、その占い師はちょろっと手のひらを撫で、「金運はいい」「恋愛も順調」「健康にも恵まれている」といった当たり障りのないことを口にした。
「なんだ、やっぱり大したことないな」と思いながらも、俺も見てもらった。
すると、…その占い師は、血相を変えて言った。

「あなたは将来、犯罪で捕まります」

その瞬間、血の気が引いた。後輩は隣でニヤニヤしていた。
帰り道、落ち込んでうなだれながら歩いていると、後輩が笑いながら言った。

「気にすることないですよ! あの占い師、当たらないことで有名なんですから。ネットでは“逆さ占い師”って呼ばれてるくらいですよ」

それを聞いて、少しだけ運命が相殺されたような安心感があった。…だが、あの占い師の血相を変えた顔が、頭から離れない。むしろ、"確信"に近づいてしまった気さえする。それでも俺は、あの顔を戒めとして、これからも精進して生きていこうと思った。
……それしか、道はないのだ。

家に帰りテレビをつけると、あの"当たる"占い師が、詐欺容疑で逮捕されたというニュースが流れていた。
そのニュースを横目に、俺は妻が作った大きな唐揚げを頬張った。

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