夢鯨

夢鯨は歌う。
深海の底に沈んでいった家族や仲間へ向けて。
夢鯨は眠る。
その夢が、世界を静かに包み込む。
山辺の道を走る汽車の特等席に、老紳士が一人座っている。
乗客は他にいない。
老紳士は珈琲を啜る。
汽車が大きく揺れても、黒い液面は不思議と波立たない。
やがて珈琲を飲み終えると、老紳士は小さく息を整え、
誰に聞かせるでもなく、やさしい歌を口ずさんだ。
歌声が車内を満たすと、
汽車はそれに応えるように、低く汽笛を鳴らした。
その瞬間、老紳士が窓の外を見ると、
遠くで誰かがこちらに手を振っているように見えた。
老紳士は満足そうに微笑み、
目を閉じ、そのまま眠りに落ちた。
そこで、夢鯨が目を覚ました。

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