サリちゃんねる

耳障りの良いサリちゃんの声が、今日一日で凝り固まった耳の奥をゆっくりと解していく。
真っ暗な部屋には、私の呼吸音と、スマホから流れる声だけがあった。
この時間が、一日の中でいちばん好きだ。
布団の中で目を閉じ、何も考えず、ただ声を浴びる。
体がじんわり温まっていく。
意識の輪郭が、少しずつ溶けていく。
世界が遠のく。
……。
……。
声がする。
誰だ?
──ああ、サリちゃんだ。
なぜ、ここにサリちゃんがいる?
……動画を再生しているからだ。
ここは布団の中。
私は寝ていた。
喉がひどく渇いている。
目を開けると、天井がぼんやり揺れていた。
立ち上がり、暗い廊下を抜けて冷蔵庫を開ける。
キンキンに冷えた麦茶を一気に流し込む。
喉の奥が、ひりっとする。
部屋に戻るころには、眠気が少しだけ引いていた。
「ではまた、バイバーイ♪」
陽気なBGM。
動画の終わりだ。
前半の途中で寝落ちしてしまったらしい。
少し悔しくなって、シークバーを巻き戻す。
──そこで、違和感に気づいた。
記憶にない部分が、ない。
印象的な話題も、間の取り方も、全部覚えている。
寝ていたはずなのに。
夢を見た感覚も、ほとんどないのに。
夢の中にまでサリちゃんがいた?
そんなはず、ない。
なのに、なぜか嬉しかった。
いつでも一緒にいられるような気がしたからだ。
私はもう一度、サリちゃんねるを再生し、布団に潜り込む。
少し胸が高鳴る。
でもその鼓動も、声を聞いているうちに落ち着いていく。
体が、また温まってくる。
世界が、また遠のいていく。
……。
……。
「最近さぁ……
夢に……変な男……出てくるんだよね……。
毎回……同じ人……。
なんか……気持ち悪くて……」
目が、開いた。
真っ暗な部屋。
スマホの画面は、もう消えている。
なのに、声だけがすぐ耳元で、続いていた。

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