ルバーブ
かつて日本にはルバーブが自生していた。
太古の昔より、ルバーブは人々の生活に欠かせない植物であった。
茹でてお浸しにしたり、汁物に入れたり。
特別美味というわけではなかったが、どちらかといえば貴族より庶民に愛される、家庭の味であった。
しかし鎌倉時代前期、ある伝染病が流行する。
ルバーブだけに感染するその病は猛威を振るい、畑のルバーブは枯れに枯れ、三十年も経つ頃には日本から姿を消してしまった。
人々の生活から、ルバーブは消えた。
それから数百年が経った。
「やっと見つけた……!!」
植物を研究していた惣右衛門は、口伝で伝えられるその植物をなんとか繁殖させるべく、実家の武家屋敷に持ち帰った。
試作を重ね、自分の庭ではなんとか生育に成功したが、外の環境下に置くとすぐ枯れてしまう。
時折料理して家人にも振る舞ったが、評判は良くなかった。
「個人的には好きな味であったが、万人受けはしないか……。古来の人は好んで食べていたと伝えられるのに」
「この酸味は砂糖を加えれば、風味のある菓子のようになるはず……。だが砂糖は手に入りにくい……」
「庶民でも砂糖が気軽に手に入る……夢のまた夢か」
惣右衛門はその時代を迎えるなく、幕末の混乱の中で没した。
――
二崎ベーカリーのジャムパン。
パンの中にたっぷり詰められたルバーブジャムは、甘みと酸味のバランスが絶妙だ。
店主の二崎さんが所有する、百年前に建てられた江戸屋敷跡の庭先に自生していたルバーブが使われている。
ただし、その時代に日本へルバーブが輸入されたという記録は残っていない。
二崎さんが焼くパンの甘い香りは、かつて誰かが夢見た香りなのかもしれない。