イルカ

イルカの背に乗って海を駆けている。
いつからそうしているのかはわからない。
自分が誰なのかだけは覚えていた。 そして、それはできれば思い出したくない自分だった。
青い空には、巨大なビルのような入道雲が浮かんでいる。
そういえば、腹も減らない。
もしかすると、私はもう――。
イルカはどこへ向かっているのだろう。
この背びれを離したら、私はどうなるのだろう。
まあ、もうどうでもいい気もする。
海の藻屑にでもなればいい。
そのときだった。
「キュイーン!!」
突然の鳴き声に呆気に取られる。
次の瞬間、膨れ上がった入道雲の中から、無数のスーツ姿の人間が降ってきた。
豪雨のように海へ叩きつけられた彼らは、何事もなかったかのようにクロールでこちらへ向かってくる。
ものすごい数だった。
そこで私は気づいた。
㈱地獄突き商事の社員たちは、ついに私の横領に気づいたのだ。
そして地獄の果てまでも追いかけ、問い詰めるつもりなのだ。
死ぬことよりも恐ろしい。
そう思った私は、近くに浮かんでいた昆布を手綱代わりに掴み、イルカを全速力で飛ばした。

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